穴が開くのに酸化しない?特許データが証明するスマートスチームの「バリア性維持」の真実

食品パッケージに求められる機能は多岐にわたりますが、中でも最も重要かつ根幹をなすのが「内容物の保護」です。特にチルド食品や長期間の保存が前提となる食品においては、外部からの酸素や水蒸気の侵入を防ぐ「ガスバリア性能」の高さが、商品の賞味期限や品質維持に直結します。

電子レンジ対応食品に求められる蒸気抜き機構

一方で、近年需要が急増している電子レンジ加温対応食品においては、加熱時に発生する過剰な水蒸気を外部へ逃がすための「蒸気抜き機構」が不可欠です。
しかし、この「外部からの侵入を防ぐ(ハイバリア)」という要件と、「内部からの蒸気を逃がす(蒸気抜き)」という要件は、パッケージ工学において長らく「トレードオフ(背反する関係)」にあると考えられてきました。

従来技術による物理的妥協の例

従来の電子レンジ対応フィルムの多くは、この矛盾を解決するために、物理的な妥協を強いられてきました。例えば、フィルムの一部に刃物で微細な貫通孔を開けておいたり、表面のバリア層や基材層を物理的に削り取って弱くする(ハーフカット等)手法が一般的でした。
確かにこれらの手法を用いれば、加熱時の内圧上昇に伴って物理的に開いた穴から蒸気を逃がすことは可能です。しかし、パッケージの最も重要な役割である「バリア層」に直接傷をつけてしまうため、その部分から流通段階で容赦なく酸素が侵入してしまいます。結果として、バリア性が著しく低下し、食品の酸化や風味の劣化を招き、本来設定できるはずの賞味期限を短くせざるを得ないという大きなジレンマを抱えていたのです。

フードロス削減と利便性の両立という課題

「フードロスを削減するために賞味期限は極限まで延ばしたい。しかし、消費者の利便性のためにレンジ対応の蒸気抜き機能も持たせたい。」
この一見不可能とも思える課題に対し、大和製罐は自社の持つ特許技術によって、極めてスマートな解決策を提示しました。それが、自動蒸通フィルム「スマートスチーム」に採用されている「無配向化技術」です。

スマートスチームのアプローチ

スマートスチームの最大のアプローチの違いは、「フィルムの層を物理的に削ったり、切断したりしない」という点にあります。
特殊な熱源を用いた非接触の加工により、フィルムの基材層に対して局所的に融点以上の熱を与えます。すると、その熱を受けた部分の樹脂だけが、整然と並んでいた分子の構造(配向)を解きほぐされ、強度が低下した「無配向状態」へと変化します。

重要なのは、熱によって分子の並び方を変えただけであり、フィルムの厚みそのものが薄くなったり、バリア層に穴が開いたりしているわけではないということです。流通時や店頭での保管段階では、パッケージは完全な密閉状態を保っています。そして、消費者が電子レンジで加熱し、内部から強い圧力がかかったその瞬間にのみ、分子の並びが解けた「弱い部分」が引っ張られて破断し、初めて物理的な「蒸気口」が形成されるのです。

この理論が机上の空論ではないことは、特許出願過程で行われた厳密な実証試験のデータによって裏付けられています。

大和製罐の開発チームは、このメカニズムによるバリア性の維持を証明するため、比較試験を実施しました。
一方のサンプルには、従来技術に近い手法として、フィルムの表面層を物理的に除去(削り取る)する加工を施しました。もう一方のサンプルには、スマートスチームの特許技術である「熱加工による無配向化」を施しました。そして、両者のフィルムがどれだけ酸素を通してしまうか(酸素透過度)を、精密な測定装置を用いて比較したのです。

試験結果と考察

結果は、極めて明確なものでした。
表面の層を物理的に除去した従来型のフィルムは、加工を施していないまっさらなフィルム(ブランク)と比較して、酸素透過度が大きく跳ね上がり、バリア性が著しく損なわれていることが確認されました。バリア層への物理的な欠損が、ダイレクトに性能低下につながったのです。

対して、スマートスチームの特許技術を用いたフィルムはどうだったでしょうか。
驚くべきことに、加工部分を持たないまっさらなフィルムと比較しても、酸素の透過量はごくわずかな変動にとどまり、「未加工のフィルムとほぼ同等の優れたガスバリア性能を維持している」という事実がデータとして証明されました。分子の並びを変化させるだけで、バリア層としての連続性を破壊していなかったため、酸素の侵入を許さなかったのです。

この特許技術が証明した「穴が開くのに酸化しない(バリア性が落ちない)」という事実は、食品メーカーにとって革命的な意味を持ちます。
これまでレンジ対応にするために泣く泣く妥協していた賞味期限の課題をクリアし、フードロスの削減と消費者の圧倒的な利便性を、高次元で両立することが可能になったのです。スマートスチームは、パッケージ工学の常識と矛盾に挑み、それを科学的エビデンスをもって打ち破った、新時代のソリューションと言えるでしょう。

斎藤慎一
斎藤慎一
・ポリエステルを中心としたプラスチック、樹脂、高分子材料の研究に携わる。現在はパッケージングソリューション開発を推進。